【書籍紹介】『医療幻想ー「思い込み」が患者を殺す 久坂部 羊』

 

1.薬は効くという幻想

ある薬が,効果があるかないかを検証するためには治験が必要です。その薬を使う対象者と使わない対象者を比較することで効果が実証されます。確かな根拠を得るためには,有効性が証明されていない治療は受けないという冷静な判断をする患者の協力が必要である,と著者は述べています。

薬で症状が改善しているようにみえて,実際は人間に備わっている自然治癒力を弱めてしまっている,と著者は述べています。もちろん,有効な薬はあり状態に応じて必要な投薬はされるべきだと思いますが,疾患(病気)そのものを薬で治癒(=完全に治ること)できると思っている患者が多いことが日本の医療の問題だと思います。

 

2.診断幻想

(引用)
診断がつけば安心するというのも,医療に対する幻想のひとつである。正しい診断は正しい治療の第一歩だが,それで治癒するという保証はないからだ。

診断がつけば安心するという患者の心理の背景には,疾患名(病名)が付けば改善する方向に向かうだろうという期待があるのでしょうが,確かにそんな保証はありません。

(引用)

診断とは,ある種の線引きである。人間が基準値を決めて,正常と異常を分けている。だから基準値が変われば,それまで正常だった人が病気になったりする。

本書では高血圧を例に上げています。
現在,高血圧の基準は収縮期140mmHg/拡張期90mmHg以上です。家庭で測る場合は135/85以上。年々基準が下方修正され,現在では約4000万人が高血圧患者であるされています。さすがに上が190~200まで上がる場合は注意が必要ですが,基準値を超えているからと言って処方された降圧剤を安易に飲み続けるのは問題です。
マスメディアの情報を鵜呑みにせず自分で調べて自分の頭で考え判断することが大事です。なお,基準が下方修正されていった背景には,高血圧学会と製薬会社の癒着があったことは言わずもがなです。

認知症と老化による認知機能の低下を厳密に区別するのは困難である,と著者は述べています。

(引用)

いくら専門医が診ても,自然な老化現象としての脳機能の低下と,認知症によるそれとは,厳密には区別できない。そもそも認知症患者はたいてい高齢なので,当然,老化現象が加わっている。

確かに明確な線引は困難ですし,日常生活に支障が出ていないならば大きな問題ではない,と私も思います。高齢者の認知機能検査に,改定長谷川式簡易知能評価スケールというものがあり,30点満点中20点以下で認知症の疑いありとされています。私の職場では,デイケアの利用者さんには定期的にこの検査を実施しています(全盲であるとか喋れないなど実施不可な場合を除き)が,検査者の判定のさじ加減や,同じ対象者でもその日の体調・気分によって5点程は容易に前後することがあります。それほど厳密な検査ではありません。もちろん20点以下でも家庭で問題行動を起こすことなく日常生活を送られている方々が沢山おられます(もちろん同居家族の援助や介護保険サービスを利用しているなどの背景はあります)。

 

3.厚労省が増進する幻想

日本では,がん検診の有効性が十分検証されていないにも関わらず実施されている,と著者は述べています。検診を受けたグループのほうががんによる死亡率が低いことを実証するためには,検診を受けないグループが必要です。しかし,日本では早期発見・早期治療を望む人が多いことから検診を受けないグループに入る人が十分に確保できない。
がん検診のメリットは,早期発見・早期治療により命が助かることですが,デメリットももちろんあります。手術する必要のないがんを摘出することで臓器を損傷したり,CTや胃透視を受ける際の放射線被曝で逆に発がんのリスクがあることです。

4.高齢者の医療幻想

(引用)
リハビリは本来,ゴールを決めて,期間を限って行うものである。筋力の改善や悪化の予防は,自分でもできるし,自分でやらないと効果も出ない。しかし,日本は医療幻想が蔓延しているから,「病院でやってもらわないとだめだ」とか,「専門家に特別なことをやってもらいたい」と思っている人が多い。そんな患者の思い込みや依存心も問題だし, それを利用して漫然と収益をあげている医療機関にも問題がある。

リハビリは本人の意欲が最も大事な要素であるのは間違いありません。私の職場のデイケアでも,リハビリ職がマンツーマンで関わるリハビリ以外の時間や自宅で自主的にトレーニング・運動する方は身体機能の維持向上がみられます。
リハビリをしていても老化による身体機能の低下を食い止めるのは困難なことです。75歳を過ぎたら現在の身体能力を維持するという考え方もあります。老化を受け入れるという心構えも大事だと思います。

 

5.マスメディアが拡げる幻想

マスメディアが医療幻想を拡げるのは,それを求める人が多いからだ。医学は進歩している,医療は安全で安心だ,がんや認知症になっても大丈夫だ,そういう幻想に浸りたい人が多いので,マスメディアがそれを提供する。果たしてそれでいいのか。

マスメディアは医療のプラスの面ばかり宣伝し,副作用の危険性や実際に治療を受ける困難さは正しく伝えられていない,と著者は述べています。
マスメディアの責任は大きいですが,病や老いを自然なものとして受け入れられない国民性も問題だと思います。